日本では、2020年3月から5Gのサービスが開始されました。次世代の通信インフラとして社会に大きな技術革新をもたらすといわれており、最近、「5G」という言葉をニュースなどで目にする機会も増えていると思いますが、5Gで何が変わるのか、何ができるのかよく分からないと感じる方も多いのではないでしょうか。この記事では5Gでできることや、ビジネスや社会生活で期待される活用事例などについて詳しく解説します。
5Gとは
「5G」(ファイブジー)とは「5th Generation」の略で、日本語で言うと「第5世代移動通信システム」のことです。携帯電話などで使用されている次世代移動通信規格の5世代目という意味です。現在の主流である4Gでは、ビデオ会議、YouTubeやTikTokなどの動画主体のSNS、TV番組や映画のモバイルストリーミングなどのサービスを広く世間に浸透させました。5Gでは、その最大の特徴である「超高速・大容量通信」によって、多くの業界でサービスに大変革をもたらすゲームチェンジャーになると注目されています。
5Gの3つの特徴
5Gには、大きく分けて次の3つの特徴があります。
- 超高速・大容量通信が可能
- 超低遅延で信頼性の高い通信が可能
- 多数同時接続が可能
それぞれの特徴について詳しく解説します。
超高速・大容量通信が可能
5Gでは、通信速度が飛躍的に向上します。超高速かつ大容量の通信が可能になり、例えば、2時間の映画も数秒でダウンロードできるようになります。容量の大きな動画をダウンロードする時でも待ち時間を気にする必要がなくなります。
超低遅延で信頼性の高い通信が可能
5Gでは、データの遅延速度が短いことも特徴です。より安定した信頼性の高い接続が可能になり、オンラインゲームでも通信の遅延を意識することなくスムーズにプレーを楽しむことができます。
多数同時接続が可能
5Gでは、より多くの機器を同時にネットワークに接続できるようになります。今までは、スタジアムやコンサート会場など、1ヶ所に大勢の人が集まる場所で同時にデータ通信を行うとつながりにくくなることがありましたが、5Gではそのような混雑した場所でも快適にインターネットに接続できるようになります。
また、今後はスマートフォンやタブレットをはじめ、スマート家電と呼ばれる一部の機器以外にもさまざまな機器と接続・連携することでより快適な暮らしの提案が可能になるでしょう。
5Gと4Gの違い
5Gと4Gの最も大きな違いは、4Gが「スマートフォンのためのモバイルネットワーク技術」とするならば、5Gは「社会を支えるモバイルネットワーク技術」という点です。スマートフォンやタブレットなどのデジタル機器だけでなく、身の回りのあらゆるものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)の時代を迎え、幅広い利用シーンが想定されています。
5Gは4Gに比べると、通信速度は20倍、遅延は10分の1、同時接続台数は10倍に進化していると言われ、5Gの持つ3つの特徴を組み合わせる事で様々なサービスやビジネスでの活用が期待されています。
日本における移動通信と社会の変化
「移動通信」とは、「持ち運びできる通信機器を使ったコミュニケーション」のことです。かつては、飛行機や船、電車などで移動中に行う通信を指していましたが、1979年に日本電信電話公社(後の、NTT)が「自動車電話」のサービスをスタートさせ、これが携帯電話のベースとなりました。そこで活用されたのが、第1世代移動通信システム(1G)であり、そこからは1980年代以降、約10年ごとに新しい世代に切り替わっていきます。
携帯電話の登場
1Gが普及したのは1980年代です。1985年にポータブル電話機「ショルダーフォン」が登場し、当時のドラマなどにも登場して話題になりましたね。その後、1987年には「携帯電話」が登場しました。携帯電話の小型・軽量化、料金の低価格化が進むに伴って携帯電話は急速に普及し、「双方向」のリアルタイムコミュニケーションが一般的になっていきました。
メール・インターネットの登場
1990年代には2Gが普及します。通信方式がアナログからデジタルに変わり、インターネットメールの利用やインターネット回線への接続ができるようになりました。
1999年にはNTTドコモから「iモード」が発売され、時代を牽引しました。インターネットメールの他、着信メロディや待受画面のダウンロードサービス、モバイルバンキング、ライブチケットの購入、地図検索やナビゲーションなどのオンラインサービスなども利用できるようになり、携帯電話は「コミュニケーションツール」という枠を超えました。モバイルユーザーに対する様々なビジネスが急速に拡大したのもこの時期です。NTTドコモに続いて、KDDIセルラーグループ(後の、KDDI)が「EZweb」、J-フォン(後の、ソフトバンク)が「J-スカイ」といった同様のサービスを次々と開始して、データ通信の利用が日常的になったことでユーザーの利便性が高まり、高速通信へのニーズが高まって行くことになります。
スマートフォンの登場
2000年代に入ると3Gが普及します。通信速度が大幅に向上し、より大容量のコンテンツを楽しめるようになりました。快適にインターネットに接続できるようになり、携帯電話でのインターネット利用シーンが豊かになりました。また、3Gは初めての国際標準の移動通信システムです。日本の携帯電話が海外でも使えるようになったのはこの頃からです。
一方、海外では、よりPCに近い携帯端末の開発が進み、「スマートフォン」が誕生しました。2007年にAppleが発売した「iPhone」は、当時としては革新的な端末で、世界的にスマートフォンへ移行するきっかけとなりました。
日本でも2011年以降、スマートフォンの利用が急速に拡大しました。モバイルゲームや動画配信サービスなどの大容量コンテンツを楽しめるようになりました。携帯電話を通じたコミュニケーションも、それまでの文字によるコミュニケーションから、写真や動画を中心としたビジュアルコミュニケーションへと発展し、活性化しました。
5Gの登場
そして、2020年代は5Gの時代です。
5Gを利用した新たなサービスの提供により、人々の生活もコミュニケーションもより豊かになることが期待されています。
また、新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴って、これまでの生活や働き方が大きく変化しました。在宅でのテレワークが推奨され、医療現場においてもオンライン診療も緩和されるなど、感染症対策として世の中のデジタル化が大きく進展し、新しい生活様式への移行が必須となっています。その現状を考えると、今後5Gに期待されるところは多く、ビジネスチャンスは広がっていると言えます。
5G環境の5つの活用事例
それでは、5Gを利用して何ができるのか、私たちの生活の何が変わるのか、5つの活用事例から具体的に解説していきます。
1.4K・8K映像の配信
4Gでは、大容量の動画のダウンロードには時間がかかり、「見たい時にすぐに見られない」「動画が再生途中で止まってしまう」などスムーズな視聴は困難でした。
しかし、5Gの「高速・大容量通信」を利用することで、大容量の4Kや8Kの動画をスムーズに配信できるようになります。今までは自宅のテレビやPCでしか観られなかった高精細な動画や映画を外出先でも気軽に見られるようになります。
また、スポーツやアーティストのライブ中継などのエンターテイメントも、自宅など会場から遠く離れた場所にいながら、あたかもその場にいるかのような臨場感で楽しむことができるようになります。さらに主催者側も会場の場所や規模を問わず、世界中から多くのファンを集めることが可能になるため、ユーザー・主催者の両方に取って大きなメリットが得られるでしょう。
2.没入感の高いVR・AR
5Gの「高速・大容量通信」と「低遅延での信頼性の高い通信」を利用することで、VR・ARなどを利用したより高精細な表現ができるようになります。
VR(Virtual Reality)は「仮想現実」のことです。ディスプレイやゴーグルに投影された仮想空間にあたかも自分がいるような感覚(没入感)を体験できます。例えば、自宅にいながら海外の観光地の散策や、遠方の賃貸物件の内覧ができます。
AR(Augmented Reality)は「拡張現実」と言われます。VRのひとつですが、現実世界に仮想現実を加えて、現実を拡張した世界を体験できる技術です。例えば、GPSを利用した「ロケーションベースAR」は、位置情報や方位、スマートフォンの傾きなどを利用して情報を判断します。カーナビの道案内や観光情報アプリなどに活用されることが多く、位置情報ゲームの「ポケモンGO」もそのひとつです。
こうしたバーチャル体験は、従来の「モノ」消費から体験に価値を置く「コト」消費にもつながるため、付加価値の高いサービスといえます。
5Gの本格化によって、これらの技術やサービスはさらに一般に浸透していくと思われます。
3.医療現場への応用
5Gの「超低遅延で信頼性の高い通信」を活かして、医療現場では、遠隔地からの映像を利用した診断や、遠方にいる医師が手術中に助言する「遠隔手術支援」や、ネットワーク経由でリモートコントロールできる医療機器を使った「遠隔手術」など、遠隔医療の可能性がさらに広がると期待されています。遠隔治療により、救急医療への活用、地方の医師不足を解消などが期待でき、医療に関する都市部と地方の地域格差を小さくすることができるでしょう。
また、手術を受けるためにわざわざ海外に渡航する必要もなくなるため、より多くの命が救えるようになることも期待されています。
4.車の自動運転
「超低遅延で信頼性の高い通信」を活かして、車の自動運転の技術が進歩することも期待されています。
現在も、ドライバーをサポートする機能を搭載した自動車が販売されてはいます。さらに、そうした機能が5Gに対応し、ネットワークに接続して自動運転で走行することによって、周囲の道路状況や環境の変化といった情報をAIと結び付け、より安全で快適な運転ができるようになります。例えば、車同士が互いに通信して車間距離を保つこともできますし、車のブレーキやアクセルの操作を遅延なく周囲の車に伝えることで衝突を回避することもできます。自動運転の車が増えることで、交通事故や渋滞が減れば、自動運手の車の割合も増えて行くでしょう。
また、自動運転技術の進歩によって完全自動運転ができるような将来が到来すれば、無人タクシーや無人トラックの登場による人手不足の解消や、スムーズで快適な移動など物流・交通面での革新が起きることも期待されます。
5.スマートホーム・スマートオフィスの実現
5Gの「多数同時接続」を利用することで、IoT化が加速します。IoT化が進むことによって、家でもオフィスでも、あらゆるモノがネットワークに接続してIoTデバイス化します。照明やエアコン、洗濯機などの家電が外出先からもスマートフォンで操作できるようになり、毎日の生活がより便利になります。オフィス以外の場所でも、テレビ電話やビデオ会議など、オフィスと同じ環境をストレスなく利用できるようになり、時短勤務やリモートワークの環境が整います。働き方改革を実現することにもつながるでしょう。また、オフィスの設備を縮小・最小限にしてエネルギー消費を減らしたり、そもそもオフィス自体が不要になって閉鎖したりすることで、コスト削減にもつながります。
まとめ
5Gの特徴や、5Gでできることについて解説しました。今後、5Gが本格的に普及すると普段の生活がますます便利になっていくことが期待されています。
しかし、まだ、5G通信を活かしたコンテンツやデバイスが少ないこと、5Gの対応エリアが限られていることなどの課題も残されています。5Gの普及を進める一方、こうした課題の解消にも積極的に取り組んでいく必要があります。
5Gの登場により、人々の生活が大きく変化し始めている現在、社会の常識やビジネスの現場も変革の時期を迎えています。今後、暮らしやビジネスの現場がどのように変化していくのかに注目しつつ、自社のビジネス展開に役立ててみてはいかがでしょう。